能『小袖曽我』 まとめ
- 「日本三大仇討ち」の一つとされる「曽我兄弟の仇討ち」にまつわる、仇討ちの前の出来事の話。鎌倉時代初期に、伊豆国、兄の曽我*1十郎祐成(すけなり)と弟の曽我五郎時致(ときむね)の母の家が舞台。
- 兄が、母と勘当されていた弟との仲を取り持ちます。
- 室町時代までに既に成立していた曽我物の能は7作品ありました。曽我兄弟は3兄弟で、国上寺(こくじょうじ/和銅2(709)年創建/新潟県燕市)の禅師となった末の弟がシテとして登場する『禅師曽我』があります。
- 「曽我兄弟の仇討ち」は能だけでなく、歌舞伎などに取り入れられて、侍の仇討ちの模範の話として、武家から庶民まで多くに愛されました。
>>> 『曽我物』曽我兄弟にまつわる演目
能『小袖曽我』 あらすじ
曽我兄弟の母(ツレ)が、春日局(アイ)を伴って登場、脇座と笛座前に座る。十郎祐成(シテ)五郎時致(ツレ)、団十郎・鬼王(トモ)の4人が登場、頼朝の富士の裾野の巻狩*2に参加して父の仇工藤祐経の討つ前に母の勘当を受けた五郎時致の許しを乞いに曽我の里に来る。五郎は二の松、十郎は一の松に立ち団十郎と鬼王は退場。
まず十郎は五郎を待たせて母に対面し、狩場へ行く暇乞いをのべる。つぎに十郎に促され、五郎は母の対面を願って案内を頼むが、重ねて勘当となり、五郎のことを取りもつならずば十郎も勘当という母の意思をアイが伝える。十郎は五郎を励ましてともに母の前に出、父の仇討の計画や勘当の無慈悲を語るが、わかってもらえず泣きながら去る。その二人の姿に、母は声をあげて勘当を許すという。場面は一変し、狩場への門出を祝う宴になり、酌をしあって(男舞)の相舞となる。最後は宿敵の成ることをほのめかし、勇んで門出するキリで結ばれる(一時間)。
出典:三省堂『能楽ハンドブック』
*1曽我兄弟 曽我十郎祐成 曽我五郎時致 |
当時、侍が親の敵討ちをすることは誇らしことで美談とされていたが、曽我兄弟の仇は家督争いをしていた血縁関係にある工藤祐経であった。両家共に御家人(源頼朝の家来)であったため、仇討ちの際に亡くなったのは兄祐成だけであったが、弟時致も後に謀反人として処刑された。 |
まきがり *2 巻狩 |
建久4(1193)年、源頼朝が多くの御家人を集めて頼朝の富士の裾野にて巻狩を行った。巻狩とは、シカやイノシシなどが生息する狩場を多人数で四方から取り囲み、囲いを縮めながら獲物を追いつめて射止める大規模な狩猟。 |
能『小袖曽我』 背景
作者 | 不詳。一説には宮増とも言われている。 宮増は、『小袖曽我』の他にも能「調伏曽我」「鞍馬天狗」「烏帽子折」など合計36番もの能の作者とされているが、その正体はほとんど明らかになっていない。 曾我兄弟の仇討ちを題材にした軍記物語『曽我物語』が存在する。 |
場所 | 伊豆国(静岡県東部の伊豆半島および現在は東京都に属する伊豆諸島を含む地域)にある 曽我兄弟の母の家 |
季節 | 仲夏 →旧暦5月 夏を3つに分けた(初夏・仲夏・晩夏)場合の真ん中の時期 現在の暦では、6月6日頃から7月6日頃まで。 二十四節気の芒種・夏至。 |
分類 | 四番目物 曽我物 |
能『小袖曽我』 登場人物と装束
シテ 曽我十郎 祐成 |
ツレ 曽我五郎 時致 |
ツレ 曽我 兄弟の 母 |
ツレ 団十郎 鬼王 (二人同着) |
|
冠り物 | 侍烏帽子 | 侍烏帽子 | ||
仮髪 | 鬘
無紅鬘帯 |
|||
能面 | ひためん 直面 |
直面 | 深井 | 直面 |
上着 | かけひれたれ 掛直垂 |
かけひれたれ 掛直垂 |
無紅 唐織 |
すおう 素袍 上下 |
着付 |
紅入段 襟 繍紋腰帯 |
紅入段 襟 繍紋腰帯 |
すりはく 襟
|
むじ のしめ 襟 |
袴/ 裳着 |
白大口 | 白大口 | ||
扇 | 神扇 | 神扇 | 無紅鬘扇 | しずめおうぎ 鎮扇 |
小道具 | 小刀
弓矢 |
小刀
弓矢 |
小刀 | |
間狂言 | 乳母 春日局 | |||
作物 | なし |
小物は、分かりやすさを優先して、関連のある箇所に並列に記載しています。
出典 檜書店『観世流謡曲百番集』
能装束の例(写真)をご覧になりたい際には、独立行政法人日本芸術文化振興会文化デジタルライブラリーにてご参照下さい。
能『小袖曽我』 浮世絵
能『小袖曽我』- 耕漁『能楽図絵』前編 上(松木平吉, 1901)
→ 「国立国会図書館デジタルコレクション」
能『小袖曽我』- 耕漁『能楽百番』前編 (1893–1908)
→ 「シカゴ美術館」
参考
浮世絵に表現された能『小袖曽我』(当サイト内コンテンツ)
能『小袖曽我』- 耕漁『能楽図絵』前編 上(松木平吉, 1901)
→ 「国立国会図書館デジタルコレクション」
能『小袖曽我』- 耕漁『能楽百番』前編 (1893-1908)
→ 「シカゴ美術館」
能『小袖曽我』 ― 『能楽図帖』、耕漁『能楽百番』など、他多数
→ 「文化デジタルライブラリー」
(運営 独立行政法人日本芸術文化振興会)
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