浮世絵に表現された人物画と言えば、江戸時代に歌舞伎の販促媒体としても用いられたことは周知の事実ですが、現在までの研究では、東洲斎写楽は、阿波徳島藩主蜂須賀家お抱えの能役者斎藤十郎兵衛(1763-1820)であるという説が有力になっているようです。
一方、能楽は、徳川家康の時代から江戸幕府の式楽(儀式に用いられる音楽や芸能)と位置付けられ、それに倣い、各藩においても能楽師を抱え、武士と同じ身分として従えるようになりましたが、一般には、あまり観覧する機会が与えられませんでした。しかし、謡・仕舞はたしなみとして広く親しまれていました。明治維新後、能・狂言の普及には困難の時期もありましたが、明治時代後期の木版画(浮世絵)の中に、シテを中心に、多くの能の上演の様子を表現した作品が現存しています。
明治時代から大正時代にかけて活躍した浮世絵師・日本画家である月岡 耕漁(つきおか こうぎょ (1869-1927)、以下、耕漁)は、能版画家としても知られています。250番あると言われている能の番組全てを描こうとした『能楽図絵』(能樂圖繪)は、当時の能舞台での上演中の一瞬を、シテを中心に生き生きと、水墨画のようなタッチで細部は繊細に、時には自由で大胆な構図で表現している見ごたえのある作品であり、今日ほど写真が普及していない時代であったにもかかわらず、写実的な描写も秀逸です。前後編上下の計4冊で構成されています。奇しくもこの作品は、平成30(2018)年と同じ干支の戊戌(つちのえ いぬ)であった明治31(1898)年に制作されました。耕漁は、他にも、『能楽百番』や『能画大鑑』(能畵大鑑)という能に関する作品を残しています。
これらの作品は、公表されてから、すでに、50年以上が経過しており、国立国会図書館では、インターネット上で自由に検索、閲覧、転用・転載できるように提供されているコンテンツがあります。国立国会図書館での保存は、デジタルライブラリーとして公開されて極めて検索性に優れいるいる一方で、歴史的資料として管理されており、芸術的鑑賞が第一の目的ではないため、海外を含めて、他に保存されている作品のほうが保存状態が良い場合があります。また、採番による管理のために表紙などにシールが貼られています。さらに、公開されていても、著作物そのものではなく、何らかの理由でモノクロに複写されたものである場合もありますが、時を超えて鑑賞を深める際には、非常に役立つ資料と言えます。
現代において、能楽師が日常的にこのような作品を閲覧・鑑賞するというわけではございませんが、能がお好きな皆様には、国立国会図書館や、遠くは海外にも複数現存する120年前のこの作品も、私共の実際の舞台や、上演の様子を描写した写真と並行して、ご観覧頂ければ幸いです。長年ご協力を賜っている能楽写真家の方々が撮影された私共の舞台の様子を合わせてご鑑賞いただき、実際の上演に足をお運び頂ければ誠に光栄でございます。
能の上演中の撮影は、経験を積まれた「能楽写真家」にのみ許可されており、観客の皆様には録音も含めてお断り頂いています。一人のシテ方能楽師が、同じ演目に何度も取り組むことはあまり多くありませんが、近年の上演を中心に今後も公開して参りますので、鑑賞された上演を思い出されながら、ご鑑賞下さい。
中村裕 及び 中村政裕 写真 そして、耕漁『能樂圖繪』 / 国立国会図書館 蔵 | ||
前編 上 (出版 松木平吉, 1901年) |
前編 下 (出版 松木平吉, 1898年) |
後編 上 (出版 松木平吉, 1899年) |
能『邯鄲』 | 能『高砂』 | 能『天鼓』 |
中村 裕大きな画像を見る | 中村 裕大きな画像を見る | 中村 裕大きな画像を見る |
能『吉野天人』 | 能『海士』 | 能『翁』 |
中村 政裕大きな画像を見る | 中村 裕大きな画像を見る | 中村 政裕大きな画像を見る |
能『紅葉狩』 | 能『錦木』 | 能『胡蝶』 |
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能『橋弁慶』 | ||
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前編 上 目録 | 前編 下 目録 | 後編 上 目録 |
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前編 上 付録 | 前編 下 付録 | 後編 上 付録 |
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中村裕及び中村政裕 撮影 前島吉裕 [ 前島写真店 ]
耕漁『能楽図絵』は、
国立国会図書館デジタルコレクションの規定に則り
掲載しています。
浮世絵に表現された能
耕漁『能楽図絵』編 |
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観世流能楽師 中村裕 |
中村政裕 |
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* 上演写真はございません。 |
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耕漁『能楽図絵』目録と付録
* 後編 下は存在しますが、目録や付録は著作物の非オーナーが各自のWebサイトで公開できる方式では公開されていません。 |