能『柏崎』 まとめ
- 子を尋ねる母と夫の死を悲しむ二つを兼ねた狂女物*1です。
- 主人公は柏崎殿*2の奥方の身分で、前半は母の物狂*3、後半は恋の物狂です。
- 恋といっても亡き夫への思慕の情です。
彼女は仏を頼んで夫の成仏を祈念し
やがて僧の引き合わせで我が子に巡り合います。
能『柏崎』 あらすじ
越後の国に住む柏崎とその息子である花若は、訴訟のため鎌倉に滞在していた。しかし、身内の小太郎という男が、柏崎殿は急病のために逝去*4(せいきょ)し、花若はそれを嘆いて遁世*5(とんせい)してしまったと、越後の国で帰りを待っていた柏崎の妻に告げるために戻ってきた。
柏崎の妻は、最期まで夫が自分を気遣っていたことを知り、夫の形見を見ながら、あふれ出る涙を抑えることができなかった。また、息子の花若からの手紙には、父を亡くした苦悩と、それを機に出家に至った心情、母への心遣いが綴られていた。花若の母は、出家したこの気持ちを理解するが、恨めしくも思い、また、息子の無事を神仏に祈らずにはいられなかった。
一方、花若は、信濃の国の善光寺*6を頼り、仏門に入った。花若を子弟とした住僧*7(じゅうそう)は、毎日、善光寺の如来堂に連れて参った。その頃、柏崎の妻(花若の母)は、誰が見ても分からないほどみすぼらしい姿で、夫や子のためにという思いで善光寺に向かっていた。善光寺の阿弥陀如来に、夫を導いてもらいたいという思いで訪ねたが、無我夢中で狂女のようになっていた柏崎の妻は、住僧に如来堂を出ていくように告げられる。しかし、どのような人でも阿弥陀如来の誓いによって救われるのではないかと述べ、帰依*8した。夫が成仏するように祈念し、この世は仮の世と心得てはいるが、息子が無事であり、親子の縁を添い遂げることと、かの浄土で夫との縁が再び結ばれるように願った。
その時、住僧が涙を流しながら、ここにいるこの子こそがあなたの子どもですと知らせた。花若の母はそれを聞いて、堪えられない程の嬉しさであった。お互いにそうかと思いながらも、平穏な頃とは似ても似つかないお互いの姿に気づくことはできず、しかし、よく見れば間違いなく母と子であった。親子が再会できたことは、非常に嬉しいことであった。
きょうじょもの *1 狂女物 |
「狂うこと」の原因となる、肉親や恋人という 愛する者との別離によって物狂い*3の状態と なったシテ(主人公)の能。 |
*2 柏崎殿 | 柏崎の最初の長(おさ)の柏崎勝長と言われている。 柏崎勝長の菩提寺は、香積寺 住所:柏崎市西本町3丁目4-3新潟県 柏崎市名所案内 「柏崎勝長邸跡(かしわざきかつながていあと)」 (外部リンク) |
ものぐろい *3 物狂(能) |
心が乱れて正常な判断ができないこと。 常軌を逸していること。 「ぶっきょう」とも読む。主人公の物狂いを見せる能。 恋人・子供との別れなどにより狂乱状態となった シテが登場する能のこと。最後は再会して 正気に戻り、大団円(だいだんえん/ ハッピーエンド)で終わる場合が多い。 |
せいきょ *4 逝去 |
人を敬ってその死をいう語。 |
とんせい *5 遁世 |
俗世の煩わしさを避けて静かな生活に入ること。
(仏教用語) |
ぜんこうじ *6 善光寺 |
長野県長野市元善町にある無宗派の単立寺院で 日本最古と伝わる一光三尊阿弥陀如来を 本尊とする。 江戸時代末には、「一生に一度は善光寺詣り」と 言われるようになった。 今日では、御開帳が行われる丑年と未年に より多くの参拝者が訪れる。 住所:長野県長野市元善町491 |
じゅうそう *7 住僧 |
寺院に居住している僧。 |
きえ *8 帰依 |
神仏や高僧を信じてその力にすがること。 |
能『柏崎』背景
作者 | 原作 榎木並左衛門五郎(摂津猿楽) 改作 世阿弥 |
場所 | 前 越後国柏崎 後 信濃国善光寺 |
季節 | 秋 |
分類 | 四番目物 狂女物 |
舞囃子『柏崎』 登場人物・キャスト
シテ 花若の母 /柏崎の妻 三世 梅若万三郎師 |
(子方) 花若 |
(ワキ) 小太郎 |
(ワキツレ) 善光寺住僧 |
地謡 : 番組(プログラム)を参照
舞囃子『柏崎』 | 狂言『茶壷』 | 能 『海士』 |
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